随分前の話
俺とA子は付き合って2年くらいだった。
結婚もそろそろかなと意識し始めてて、
婚約まで行かなくても両家の両親には
挨拶を済ませてあって婚約に近い形だった。
俺は一人暮らしでA子に合鍵を渡してあったので、
ちょくちょく俺が帰ってくる前に
ご飯を作って待っててくれたりもしてた。
ある日、仕事中に具合が悪くなって
早退をさせてもらった日の事。
熱っぽくて少しフラフラしながら
家路に着くと見た事のない靴とA子の靴がある。
玄関脇の風呂場からは何やら笑い声と
共に男の声もする。 (あれれ、こりゃやられちゃってるかね)とか
思いながら物音を立てないように
こっそりと部屋に入って辺りを見回すと 脱ぎっぱなしの洋服が
その辺りに散らかっていた。
ご丁寧に下着まで散乱してる有様で、
何も言われなくても状況を把握する事が出来た。
状況を把握してくると、
段々と腹が立ってきて、何かないかなぁと
周囲を見ると昔買った安物のソファーが目に入った。
風呂場は玄関脇にあるので、
比較的狭い通路になっている。
扉は通路側に開くので、
風呂場の扉の前にソファーを設置。
これだけだと心配だなとか考えて、
ソファーの上にホームセンターなんかで売ってる
シルバーラックをそっと乗せておいた。
何も知らない風呂場ではキャッキャウフフと何やら騒々しい。
締め出した事で少し余裕が出てきたのか、
携帯を置いてるんじゃないかと思って
探してみると二人分の携帯を発見。
どちらもロックがかかってないので
簡単にメールやら電話帳やらを確認できた。
男の方の携帯にはメールにはA子の他にも
本命の彼女と思しき人とのやり取りがあったので、
メールを送ってみた。
内容は 「はじめまして、俺男と申します。
現在、我が家の風呂にてB男さんと
私の彼女がお風呂でイチャイチャしておりましたので
ご連絡差し上げました。」
これだけでは信じてもらえるか分からないので、部屋に散乱してる二人の服を写メで撮って添付して、
俺の連絡先も合わせて送信。
作業に没頭してると風呂場が少し騒がしくなってきた。
どうやらドアが開かない事に気がついたらしい。
A子「あれ?開かない?」 間男「え?何で?」
タバコを吸いながら観察してると
俺の電話に見慣れない番号でかかってきた。
聞かれないようにベランダへ
静かに出て電話に出る。
俺「はい、俺男です。」 B子「もしもし、間男の彼女の
B子と申しますが、俺男さんでしょうか?」
声を聞いた限りでは
結構しっかりしてそうな女性。
家に帰ってきて風呂場でイチャイチャしてる二人に
気がついて風呂場に隔離した事を簡単に説明。
B子の家は俺の家からそれほど
遠くないようなので、俺の家の住所を
教えてすぐに向かうとの事だった。
その間、風呂場はとても騒がしい事になってた。
具合悪くて早退してきたはずなのに、
そんな事もすっかり忘れて風呂場前の
ソファーまで行く。 人の気配に気がついたのか
風呂場が静まるけど、お構いなしに声をかけてみた。
俺「ああ、お楽しみのとこ悪いんだけどね、
もうちょっとそこで待っててくれるかな。」 A子「え?は?何で?何でいるの?」 俺「これから色々連絡しないといけない人とか多いからさ、
連絡終わるまでお風呂でも入ってゆっくりしててよ。」
そういうと部屋まで戻って自分の携帯から
A子の両親に連絡を取った。
不思議と落ち着いてる自分に
おかしな気持ちになったけど、
淡々と説明した。 母親は信じられない、
何かの間違いではとか言っていたけど、
現在風呂場で男と裸で締め出してると伝えると
両親揃って来ると言う事で慌てた様子で電話を切った。
俺と彼女の共通の友人にも
連絡して現状の説明と合わせて
根回しをしておいた。
中にはA子と同じ会社の子もいたので、
そっちの方も期待してた
ところもあったかもしれない。
あらかた連絡も終わると
俺の電話が鳴ったので出るとB子からだった。
近くまで来てるのでと言う事で
分かりやすい位置まで教えて迎えに行く事にした。
その間に出られても困るので、
シルバーラックの上にテーブルを乗せて
出て行くことにした。
教えた場所まで行くとB子らしき女性がいたので
声をかけると本人であるとの事で改めて挨拶。
そこで突然連絡をした事を謝罪した後に
現状の説明を再度した。
道すがら話を聞くと、
B子は間男の婚約者だと言う事、
3ヵ月後には式も控えていたと言う事が分かった。
泣きそうな顔をしながらも
冷静に勤めようとするB子を強い女性だなと関心してた。
家に到着すると外まで聞こえるんじゃないかと
言うくらいにA子と間男が騒いでた。
A子「俺男!いるんでしょ!ここ開けて!話を聞いて!」 間男「おい!こんな事してタダで済むと思ってるのか!
今なら許してやるから、ここ開けろ!」
熱でおかしくなってたかもしれんけど、
何だかその光景が面白くて声を出して笑ってしまった。
A子「何笑ってるのよ!いい加減にして!誤解なの!」 間男「お前何笑ってんだ!早くここを開けろ!」
このままじゃ部屋までいけないなと思ってテーブルをどかして、
先に俺がソファーを越えた後、B子の手を取ってソファーを乗り越えた。
その時、我慢できなくなったのか、
B子が風呂場に向かって静かに、
でも迫力のある声で話しかけた。
B子「間男。」 間男「B、B子!?何でお前がいるんだ?」 B子「俺男さんに連絡してもらってきたの。
初めは信じられなかったけど、
部屋に散らかった洋服とか見ると事実みたいね。」
間男「待って!違うんだ!誤解だ!」 B子「何が違うの?誤解って何?
まさか他人の家で洋服脱いで
女の人とお風呂に入る理由が他にあるの?」
それだけ言うとB子は部屋に戻ってきた。
風呂場ではまだまだ騒がしいが、放置しておく事にした。
B子「あの、差し支えなければ私と間男の両親も
呼びたいのですが、構いませんか?」
俺「ああ、状況を知ってもらわないといけませんね、二人とも裸のはずですけど、それでいいなら私は構いませんよ。」
今考えると、俺が二人の裸が何だと言う必要もなかったと思う。
というよりも、B子の話では
間男の家も近いような言い方だったのに驚いた。
初めに間男の家にかけたのか、
落ち着いて話をしていたB子だったけど、
次にかけた自分の両親であろう電話には涙ながらに事情を説明してた。
傍で聞いてる俺ですら聞き取れないので、電話を代わる事にした。
俺「もしもし、お電話代わりました、俺男と申します。」 B母「え、あ、はい。B子の母でございます。」 俺「B子さんが話せる状態ではなさそうなので、
私が代わりに説明させていただきます。
B子さんのお父様はご在宅ですか?」 B母「えぇ、家におります。それで、どういった事なのでしょう?」 俺「簡潔に申し上げれば、私の家で私の彼女と
B子さんの婚約者の間男さんが一緒にお風呂に入っておりました。」 B母「え?誰と?」 俺「私の彼女のA子です。洋服が部屋に散らばってますので、
二人とも裸であると思われます。
現在、二人は風呂場に隔離しておりまして、
A子両親を私の家に呼んでいるところとなっています。」 B母「そんな・・・」 俺「B子さんと間男さんはご婚約されていたと言う事ですので、
出来ればご足労ですが、私の自宅までお越しいただければと
思ってご連絡差し上げました。」
そこまで言うと自宅の住所を教えて、
近くまで来ればB子が迎えにいくと
伝えて電話を切った。
そこまで連絡して自分の両親に
電話してないのに気がついたので、
自分の両親にも連絡をした。 気取って話す必要もないので、
簡単に状況の説明をして、
これから狭い俺の家で鮨詰めになって
話し合いになると伝えた。 俺の家は基本的には放任なので、
落ち着いたらまた連絡しろと
言われて電話を切った。 ただし、親父が敬語になってたので、
相当怒っていると言う事は容易に想像できた。
少しすると、A子両親、間男両親、B子両親から
連絡が来たので、二人で迎えに行った。 もちろんテーブルは設置した。 アパートに着くなり、風呂場の前の惨状を見た3組の両親絶句。 とりあえずテーブルをどかして、
何とか通れる隙間を作ると部屋まで案内する。
やはり心配なのか、
A子両親と間男両親が扉に向かって声をかけた。
その頃には風呂場も静かになっていたのだけど
、まさか両親まで来てるとは思ってなかったらしく、
「ひ!」と言う声も聞こえた。
両親を部屋まで案内した後、録音しなきゃと思って、
パソコンをつけてマイクからPCに録音する事にした。 そこまで準備が出来たところで、
風呂場のバリケード開放。
ゆっくりと扉を開けると座り込んで
泣いてるA子と呆然とした間男がいた。
もちろん二人とも裸だった。 二人に下着とタオルを渡して
部屋まで来るように伝えるとモソモソと動いて
部屋まで歩き始める。
そこで初めに動いたのが間男父。 部屋に戻ろうと後ろを向いた瞬間、
物凄い勢いで横を抜けて鈍い音と共に振り返ると間男が崩れ落ちてた。 吹き飛ぶとかそんなではなく、文字通り崩れ落ちた。 その様子を見てA子は「ひぃ!」と小さく悲鳴を上げて固まっていたが、
A子両親の声で恐る恐るという感じで部屋に入る。 間男父は間男の髪を掴んで引き摺って部屋までつれてきた。
ここからは簡単だった。 録音をしてる事を伝えて、
観念したようなA子に経緯の説明をさせた。 A子曰く、俺男派良い人だけど、
最近マンネリ気味で何か今ひとつ物足りなさを感じてた。 そこに同じ会社の間男から言い寄られて、
悪いと思いつつも関係を持ってしまった。 間男に婚約者がいる事も知っていたが、
バレないと思っていた。 間男との関係は2ヶ月ほど前から。 間男は体だけの関係、心は俺男にある。
具合が悪いからかA子の話が気持ち悪いのか、
吐き気がしてトイレに駆け込んで思いっきり吐いた。
戻ってきて心配そうな顔をしてるA子が更に気持ち悪く感じた。
その頃、間男が気がついたのか、
大人しく正座してA子の横に座っていた。 同じように間男にも経緯の説明をさせると・・・
やはりというか言い分が食い違った。 誘ったのはA子、今回が初めて。 結婚が決まって不安になっていたところに誘われて、
悪いと思ったがついつい関係をもってしまった。 A子は信じられないと言う顔で間男を見る。 ここで仁王が再度立ち上がるが、
A子B子父に止められ湯気が出そうな顔で座る。
二人の話が終わると俺はA子に別れる旨伝え、
A子両親も仕方ないと納得した。 納得しないのはA子。
A子「いや!別れたくない!心は俺男にあったんだからこれは浮気じゃない!」 俺「心が動いたら浮気とは言わないんだよ、
それは本気と言うんだ。体だけの関係でも十分過ぎるほどの裏切りだろ。」 A子「出来心なの!俺男と別れるなんて出来ない!それなら死んだほうがマシ!」 俺「知らん、死ぬなら俺の知らんとこで死ぬと良い。
ただ、そうする事で今回迷惑をかけたお前の両親に更に
深い傷を残す事になるのは忘れるな。」
わぁぁっと泣き崩れるA子を他所にA子両親に
部屋にあるA子の荷物を宅配で送る事を伝えて、
B子両親には今回録音しているデータを後で渡す事を伝える。
そこで間男両親とA子両親が土下座を始める。
A父「このたびはうちの馬鹿が本当に申し訳ないことをした。
俺男君には何と言って良いか言葉もない。
そちらのお嬢さんにも大きな傷を残してしまった。本当に申し訳ない。」 間男父「うちのクズがしでかした事でお二人には申し開きも出来ない。
本当にすまない。」
両親に責任はないと伝えて頭を上げてもらう。
ただし、今回の事で俺はこの部屋に住み続けることは
耐えられないので引越しをしようかと思う。 その費用はA子間男で負担して欲しい。
そう伝えると両家父は同じタイミングで
「もちろん、そうさせてもらう」と言う。
B子、間男の話は向こうの事なので、
今日のところは間男はこのまま連れて帰る、
B子両親には日を改めて謝罪と今後の事についての席を設けると
伝えて着替えもそこそこに間男は退場した。 A子はまだ泣いていたが、両親に諭されて着替え、
泣きながら部屋を出ていった。
残ったB子とB子両親に改めて突然の連絡を謝罪して、
連絡先を聞き、データを後で渡すと伝えたところで、
緊張の糸が切れたのか意識がなくなった。 気がついた時には病院のベッドの上だった。 初めに見たのがお袋の顔だった。 ここからはうちの両親に聞いた話だが、
俺が倒れた事で焦ったB子とB子両親はすぐに救急車を呼び、
俺の携帯から俺の家に連絡をしたとの事だった。
俺母「あんた、具合悪いならそう言いなさい。
B子さんのご家族にまで迷惑かけて。
お医者さんが言うには緊張から開放された事で気を失っただけだって事だけど、大丈夫なのかい?」
話し始めると止まらないお袋にああとかうんとか
生返事を返して一晩病院で過ごして帰宅した。 翌日、職場に事情の説明と病気と言う事を伝えて、
しばらく休めとの事で休暇をもらった。 PCに録音したものもCDに移して、
B子に渡す為に連絡を取るとB子だけでなく
B子両親にまでいたく心配をされてしまって、
またも申し訳なく思って謝罪をした。
この後はB子とA子の友人から聞いた話。
A子は、俺が連絡した共通の友人から会社の同僚に知られることになって、
居辛くなったのか間もなく退社。 退社とほぼ同時期に妊娠発覚、
子供は中絶したらしい。
間男は、解雇までは行かなくとも、
社内風紀を著しく乱したと言う事で僻地へ左遷となったらしい。
また、結婚式の費用や慰謝料なども請求されたと言う事だった。
慰謝料に関してはA子にも請求したとB子が言ってた。
間男は今回の件で両親から勘当を言い渡されて、
費用・慰謝料共に全額自分で支払う事になった。
この辺りはB子の弁護士を通すと言う事らしいので、
今後の接触はないとの事。 俺はA子間男両親から改めて謝罪と
幾らかの慰謝料をもらって引っ越した。
その後、B子と連絡を取るようになって親しくなり、
B子両親にも気に入られたようで、程なくしてB子と結婚。
今は1児の父。 今では当時の倒れた時の事なんかを冗談交じりに話すまでになりました。
なるべく分かりやすくと思ったら長くなってしまいました。
こんな時間までお付き合いいただきありがとうございます。
引用元:http://kuruly.net/archives/473/